Subject   : イオニア自然哲学

カテゴリー  : 人文 >  


 イオニア自然哲学 
 小アジアのエーゲ海に面したミレトスを中心としたイオニア地方に、紀元前6世紀に自然哲学がおこった。それは、この地が、ギリシア人の植民市として始まり、早くから交易の中心地として栄え、オリエントからもいろいろな情報がもたらされ、知識の交流が盛んだったためと考えられる。それ以後、前5世紀ごろまでに多くの哲学者が登場した。

 イオニア地方の哲学者たちは、神話や宗教、道徳に束縛されずに自然そのものを観察し、あらゆる物事の根源にあるもの(アルケー)を探求し、それぞれ説を唱え、論争した。その中から、現代の科学にも通じるような自然観が生まれてきた。また、物質の根源を探求することから、認識論が生まれ、後のギリシア哲学の深化を準備した。  代表的人物としては、万物の根源は水であると説いたタレース、数を万物の根源としたピタゴラス、万物は流転すると言ったヘラクレイトス、また物質の根源を「無限定なもの(トアペイロン)」としたアナクシマンドロスなどがいる。またペリクレスの親友だったというアナクサゴラスは「太陽は灼熱した岩石にすぎない」と考えた。エンペドクレスはさらに宇宙は地・水・火・気の4元素からなると考え、さらにデモクリトスに至って原子論に達し、現代の物質観に近づいている。  イオニア地方の中心地のミレトス出身者は、タレス・アナクシマンドロス・アナクシメネスの三人。ほかは、ヘラクレイトスはイオニア地方のエフェソス、アナクサゴラスはクラゾメナイ、エンペドクレスはシチリア島、ピタゴラスはイオニア地方のサモス島(後に南イタリアに移住した)、デモクリトスはトラキア地方の出身者であり、すべてがイオニア地方ミレトスの出身というわけではない。

● タレース
 彼は万物の根源(アルケー)は水であるとした。また前585年5月28日に小アジアで起こった日食を予言したとして、賢人と言われた。  タレースの著作は一切伝わっていないが、ヘロドトスやアリストテレスなどの著述の中に引用されている。上記の日食の予言以外にも逸話の多い人で、ピラミッドの高さを測ったとか、こぐま座を基準とする航海術に改善したなどとも言われている。彼は貧しかったので、哲学など何の役にも立たないと非難されたとき、天文気象の研究からオリーヴの豊作を見越し、油をしぼる工場を借り切り、やがて彼の見通しが当たって、工場の借り手が殺到し、しこたま利益をあげたという話や、彼が星をながめていて穴に落ちた話などが伝えられている。

● ヘラクレイトス
 前6〜5世紀初めのイオニア自然哲学の一人で、イオニア地方のエフェソスで生まれ、万物の根源にある物質は一定のものではなく、常に変化すると考え、その基になるのは火であるとした。その考えを端的に「万物は流転する」(パンタ・レイ)と言った。

● デモクリトス
 前5世紀末から前4世紀初めの自然哲学者。トラキア(ギリシア北方)のアブデラの出身。彼は物質の根源には、目に見えない、それ以上分割することのできない、原子(アトム)が存在する、と考えた。その考えは、原子論的唯物論とも言うべきもので、後のゼノンなどのストア派にも影響を与えた。 

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