Subject   : 病原体とエンドサイトーシス

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 病原体とエンドサイトーシス
エンドサイトーシスのうち特に食作用は、本来、体内に侵入した細菌などの病原微生物を排除するための、生体防御機構として重要である。感染の初期には、侵入した微生物を好中球やマクロファージが貪食することによって、病原体が排除される。またマクロファージは、貪食して細胞内で分解した異物の断片を細胞表面に提示(抗原提示)し、それをヘルパーT細胞が認識することによって、その抗原(異物断片)に特異的な抗体の産生が促進されるという、抗原提示細胞としての役割を担っており、感染初期だけでなく、もっと多くの病原体が侵入したときにも対処可能になるよう、より高度な免疫システムに情報の橋渡しを行っている。

一方、病原体にとっては、食作用によって排除されることは不利益につながるため、食作用から逃れるための機構をさまざまに発達した病原体も多く存在する。例えば、一部の病原細菌には、莢膜や粘液層と呼ばれる、多糖類やペプチドなどの分泌物からなる層で自分自身を包み込んだものが存在しており、この構造によって食細胞による貪食を回避している。このことは病原体にとっては生存に有利に働いているが、ヒトなどの宿主にとってはこのような貪食回避機構を持つものは病原性で毒性が強いものとなるため、医学上、問題になることが多い。
またウイルスなどの偏性細胞内寄生体や、宿主細胞内に寄生する一部の細菌(細胞内寄生体:赤痢菌、サルモネラ、結核菌など)は、その増殖の場となる細胞内部に侵入する際に、エンドサイトーシスを利用することが知られている。

ウイルスにおいては、アデノウイルスなどエンベロープを持たないウイルスが細胞に侵入する機構として、一般にエンドサイトーシスを利用することが多い。また、エンベロープを持つウイルスでもインフルエンザウイルスなどは、エンドサイトーシスによる細胞内侵入を行う。

細菌においては、ほとんどの細菌にとって食細胞に取り込まれることは、その後、リソソームの働きによって殺菌されることにつながるが、一部の細菌はエンドソーム膜を溶かして細胞質に逃れたり、エンドソームの性質を変化させてリソソームとの結合を阻害したり、リソソーム中の活性酸素に抵抗性を示すなど、さまざまな手法で殺菌から逃れ、細胞内に感染する。これらの細胞内寄生性細菌には、むしろ積極的にエンドサイトーシスを引き起こすことで、マクロファージや上皮細胞などに取り込まれようとする機構を有するものも見られる。

 ⇒ エンドサイトーシス (Endocytosis)

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