Subject   : 細胞の接着

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 細胞の接着
細胞どうしの結合が作られるためには、まず最初に細胞どうしが接着(adhere)しなければならない。細胞はただくっつきあっているのではなく、選択的な接着によって、積極的に寄り集まっているのである。
 接着の過程は、

 1)細胞がお互いに相手の細胞を認識して、同じ仲間ならくっつきあう
 2)同じ仲間同士が細胞の塊を作る
 3)細胞の塊はやがて分化して組織となる

というように進んで行く。

ホルトフレーターらは、イモリの予定表皮細胞と神経板の細胞を混ぜ合わせておくと、自然と両者は塊を作り、やがて選別が起こり表皮は外側に、神経細胞は内側に塊を作り、それぞれの組織に分化することを示した。(1955)。この古典的な実験は、細胞はお互いに認識しあい選別が起こることを示している。 このような細胞の選択的な接着過程は、カイメンのような系統的に古い動物でも観察することができる。磯によく見られるダイダイイソカイメンとムラサキソカイメンはきわめて近縁種で体の色が異なるが、これを、それぞればらばらにして混ぜておくと、最初は混ざっているが、やがてもとの2つの色の塊に分かれてくる。  このような過程は、発生(development)の進行や形態形成(morphogenesis)に伴ってごく普通に起こる現象である。発生や形態形成の過程では、それまで発現していた接着分子が消失し、別の接着分子が発現して細胞膜の接着性が変わり、細胞の選別が行われる。

■ 接着分子
細胞どうしが相互に認識して接着するためには、細胞膜の表面に突き出した 接着タンパク質が関与することが分かってきた。 主な接着分子には、カドヘリン(Ca+adhere+in)とCAM(cell adhesion molecule)がある。いずれの場合も、接着分子どうしが、結合して細胞を 接着させる。
 カドヘリンは、カルシウム依存性の接着分子である。カルシウムイオンの存在下に、隣あった細胞のカドヘリンどうしが、お互いに同じ分子だということを認識して結合する(これhomophilicという)。上皮細胞だと、こうして形成された接着がジャンクション(adhesion belt, desmosome)になる。カドヘリンにはいくつかの種類があって、発生(development)の際の分化(differentiation)に重要な役割を演じている。
カエルの初期発生において、嚢胚期から神経胚期へ進んだあと、外胚葉に神経板(neural plate)ができ、やがて左右の縁が盛り上がって中央で閉じて神経管(neural tube)をつくる過程を描いている。さらに神経管と表皮の間に神経冠(neural crest)が分かれ出て、移動して神経節(ganglion)を生じる。
また、マウスのカドヘリンのうち、表皮に発現するE-カドヘリンと、神経組織に発現するN-カドヘリンの発現の消長によって、神経管が分化する。  初めは表皮であった細胞ではE-カドヘリンが発現しているが、やがて将来、神経管になる部域ではE-カドヘリンが発現しなくなり、かわりにN-カドヘリンガ発現してくる。
 N-カドヘリンを発現する細胞群はE-カドヘリンを発現している細胞とは一緒にいられなくなり、そこから内側にくびれ出て、神経管を形成する。
 神経冠細胞になる細胞はどちらも発現せず、そのため表皮と神経管の間に両者から別れ出て、神経管を覆うように分布する。やがて神経冠細胞は移動をはじめる。
 カドヘリンは、細胞内でカテニンというタンパク質を介して、細胞骨格分子であるアクチン繊維と結合している。

 CAMはカドヘリンとは異なり、カルシュウム非依存性の接着分子である。やはり隣の細胞のCAMと結合する(異なる膜タンパク質と結合することもあるが)。CAMには、いろいろな種類があり、癌の転移や、発生に伴う細胞のソーティングに関係するらしいが、詳しいことは省略する。
 CAMは、免疫グロブリン(immunogloburin, Ig)と似た構造をしていて、 免疫グロブリンスーパーファミリーの一員である。

■ 細胞外マトリックスとの接着
 上皮細胞のシートは、結合組織の一番表面の基底層(basal lamina)に張りついている。この張りつき(ジャンクション)は、すでに述べたように構造としてはヘミデスモゾームによる。ヘミデスモゾームの場合、膜タンパク質として細胞表面へ突き出しているのは、インテグリンと呼ばれるタンパク質である。インテグリンは、基底膜を構成するラミニンやフィブロネクチン、コラーゲンでできた網目構造にしっかりと結合している。
 ⇒ 細胞接着分子の種類

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