Subject  : せん妄

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 せん妄
せん妄とは、突然起こり良くなったり悪くなったり変動し、見当識障害、注意力と思考力の低下、意識レベルの変化を伴う認識障害です。
せん妄と認知症は精神(認識)の機能障害の原因としては最も多く、正常な人のように知識を獲得し、保持して、使いこなすことができなくなります。せん妄と認知症は同時に発症する場合がありますが、この2つはまったく別の障害です。せん妄は突然に始まって精神機能を不安定にしますが、通常は可逆的です。一方認知症は徐々に始まって、ゆっくりと進行し通常は不可逆的です。またせん妄と認知症は、それぞれ異なる精神機能の障害を起こします。せん妄は、注意力や思考力を阻害します。認知症は、記憶喪失を起こし、精神機能(認識)全体を低下させます。せん妄も認知症もどの年代の人にも起こり得ますが、脳は加齢により変化するため、高齢者で最も多くなります
せん妄は病気ではなく、異常な精神状態を指します。この言葉には医学用語としての定義があるにもかかわらず、しばしばさまざまな混乱状態を表すのに使われています。
せん妄は一時的な状態であるため、患者数を決めることは困難です。せん妄は何らかの新しい病気が起こった徴候であることが多く、70歳以上の入院患者の約3割に起こっています。

 【原因】
高齢者や、脳卒中、認知症、神経に変性を起こす病気にかかっていると、重症でなくてもせん妄は起こります。これらの患者では、尿閉や便秘、眼鏡や補聴器を外しているときに感じる周囲からの孤立感(感覚遮断)、長く続く不眠(睡眠遮断)、といった軽い病状がきっかけで、せん妄が起こります。たとえば、感覚遮断と睡眠遮断は集中治療室(ICU)で多くみられ、せん妄を起こすことがあります。 入院も、せん妄を引き起こすきっかけとなります。
高齢者では、通常は処方薬がせん妄の原因です。モルヒネやメペリジンを含むオピオイド、ベンゾジアゼピン系を含む鎮静薬、抗精神病薬、抗うつ薬など精神活性のある薬は、神経細胞に直接作用して脳の機能を損ない、せん妄を起こすことがあります。市販されている抗ヒスタミン薬など、抗コリン作用のある薬は、せん妄の原因になります。興奮薬のアンフェタミンもせん妄を起こすおそれがあります。ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系など、長期に服用していた鎮痛薬を急に止めると、かなりの頻度でせん妄が起こります。同様にアルコール依存者の禁酒(薬物の使用と乱用: 症状と合併症を参照)やヘロイン中毒者の急なヘロインの使用中止も、せん妄を引き起こします。
血液中のカルシウム、ナトリウム、マグネシウムなどの電解質の濃度が異常値になると、神経細胞の代謝活動が妨げられて、せん妄が起こります。電解質の異常は、利尿薬の使用、脱水、あるいは腎不全や癌(がん)の広範な進展で起こります。また甲状腺の働きが衰える甲状腺機能低下の場合は、嗜眠(しみん)とともにせん妄が起こり、逆に働きが活発になりすぎる甲状腺機能亢進の場合は、やたらと体を動かす多動を伴うせん妄が起こります。

若い人のせん妄の原因は、通常は脳が直接侵される病気で、髄膜炎や脳炎のような脳の感染症がその例です。一方、高齢者のせん妄は、薬や体の他の部分の病気でも起こります。たとえば尿路感染症、肺炎、インフルエンザなど、脳に間接的な影響を及ぼす感染症です。

 【症状】
せん妄は、突然始まって数時間から数日間続きます。せん妄状態の人はさまざまな行動を取りますが、大まかにいうと徐々に悪酔いしはじめる人に似ています。
せん妄の顕著な特徴は注意力がなくなることです。せん妄が起こると集中力が働かなくなるため、新しい情報が処理できず最近の出来事を思い出せなくなったりします。不意に時間や自分が今いる場所が(少なくても部分的に)わからなくなるときは、せん妄の前兆かもしれません。重症のせん妄の場合は、自分がだれかもわからなくなります。思考は乱れて、うろうろと歩き回ったり支離滅裂な行動を取ったりします。意識のレベルは不安定で、はっきり目覚めてきたかと思えば急に眠気が強まったりします。せん妄の症状は分刻みで変化しますが、遅い時刻に悪化する傾向があります(日没現象と呼ばれます)。せん妄の人は、睡眠中も落ち着きがなく、睡眠‐覚醒のサイクルが逆転して昼間に眠って夜に起きていたりします。
せん妄状態の人は、奇妙な幻覚におびえたり、また実際に存在しない人やものが見えたりします。中には偏執的になったり、妄想(認識や経験を誤解したまま信じてしまう)を抱く人もいます。
せん妄は、人格や気分まで変えてしまいます。静かで内向的になってしまうため、だれからも気づかれない人もいます。逆に興奮して休みなく動き回る人もいます。鎮静薬の服用後にせん妄を起こした人は、非常に眠くなって黙りこむようになり、逆にアンフェタミンの服用後や鎮静薬を中止したために起こるせん妄では、攻撃的でやたらと動き回るようになります。

 【治療】
せん妄の原因を素早く突き止めて治療できないと、どんどん眠気が強くなって、よほどの強い刺激を与えなければ反応しない 昏迷(こんめい)と呼ばれる状態になります。
せん妄の治療は、その原因によります。たとえば、感染は抗生物質で治療し、脱水に対しては水分と電解質を静脈に投与します。アルコールの離脱症状によるせん妄には、禁酒するための方法と並行してベンゾジアゼピン系の薬が与えられます。
総合的な対策も重要です。できるだけ落ち着けるように静かな環境を保ちます。病院のスタッフや家族は、できるだけ患者を安心させて時間や場所の感覚が戻る手助けをし、治療とその進め方を説明します。せん妄を起こしている人は脱水、栄養不足、失禁、転倒、床ずれなどを起こしやすくなっているので、きめ細かいケアが必要です。
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