Subject  : 血栓性血小板減少症

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 血栓性血小板減少症
 ワクチンの接種を受けた数名が血栓症(血管の中で血が固まる病気)を発症したという症例が、2021年3月初めから欧州で報告されるようになりました。その多くが通常では血栓がみられない重要な部位に血栓ができ、とりわけ、脳からの血流を受ける静脈が血栓で塞がれる病態(脳静脈洞血栓症[CVST])が顕著に認められました。CVSTに関連して脳内出血がみられた例もありました。腹部の臓器や脚からの血流を受ける静脈に血栓ができた人もいました(MSDマニュアルの「深部静脈血栓症(DVT)」を参照してください)。症状としては、重度の頭痛、腹痛、吐き気と嘔吐、視覚の変化、息切れ、脚の痛みなどがみられました。

この血液凝固異常について研究が進むに連れて、発症した人では血液中の血小板の数が少なかったこと(この状態を血小板減少症といいます)が明らかになりました。血小板は血液中を循環して血液凝固を助ける成分ですので、これは矛盾しているように思えます。通常は、血小板の数が少ないと、出血が起きやすくなるのです。しかし、異常な血栓が形成される過程で血小板が使われために、血小板の数が減少していたことが明らかになりました。COVID-19ワクチンの接種後に重度の血栓形成と血小板減少症がみられるという臨床像は、ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia:VITT)と呼ばれるようになりました。

問題は、なぜワクチンの接種後に起きるかでした。

血小板数の減少を伴って異常な血栓が新たに形成されるという、この臨床像は、ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)と呼ばれる病気でもみられることが分かっていました。これは、抗血栓薬のヘパリンを服用した5〜10日後に発症する可能性のある、まれな合併症です。これはヘパリンに対する複雑な免疫反応によって引き起こされることが知られていて、その反応では、まず抗体が形成され、それが血小板を活性化し、結果として血栓が形成されて、血小板の数が減少します。その後、COVID-19ワクチンの接種を受けた人の一部でこれに似た抗体ができるということが、研究により明らかにされました。検査によってこの抗体を検出し、VITTの診断を確認することができます。

J&J社とアストラゼネカ社のワクチンはどちらも、効果を示す成分を運ぶ手段として無害なアデノウイルスが使用されていますが、モデルナ社とファイザー社のワクチンにはウイルスが使用されていません。そのため、一部の専門家は、アデノウイルスとVITTの間につながりがあると推測しています。一方、ロシア製と中国製のワクチンにもアデノウイルスを使用したものがありますが、それらのワクチンの使用後にVITTが発生した事例は報告されていません。

米国で最初に使用できるようになったモデルナとファイザー/ビオンテックのmRNAワクチンは、当初は血栓症を引き起こさないと考えられていましたが、米国内でmRNAワクチンを接種した人を対象とした最近の研究で、この集団でもワクチン接種後2週間以内にまれにCVSTが発生すること(mRNAワクチン接種者におけるCVSTの発生率は100万人あたり約4例)が報告されています。

CSVTは、自然にCOVID-19に感染した後にも発生することがあり(COVID-19感染者におけるCVSTの発生率は100万人あたり約40例)、その頻度はCOVID-19ワクチン接種後のおよそ10倍です。ヘパリンや同様の薬剤を服用したことのない健康な人の場合、この疾患は非常にまれです(CVSTの発生率は100万人あたり約0.4例)。

VITTで特に危険な点の一つは、過剰な血液凝固に対して最もよく用いられる治療法がヘパリンの投与だということです。VITTの患者にヘパリンを使用すると、むしろ問題が悪化するのです。そのため、血小板数が少なく、COVID-19ワクチン接種後の検査で血栓が認められた人に対しては、医師はVITTを疑い、抗体を調べる検査を行うとともに、ヘパリンの投与を避ける必要があります。抗凝固薬が必要な場合は、ヘパリンの代わりに、より新しい抗凝固薬のアルガトロバンやレピルジンを使用します。また高用量の免疫グロブリン静注療法(IVIG)も、VITTでみられる抗体による血小板の活性化を速やかに停止させるのに役立ちます。

 
 

<出典:>
 ⇒ 血液の主な病気

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