Subject   : ウイルスベクターワクチン

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 ウイルスベクターワクチン
 ウイルスベクターワクチンは, ヒトに対して無毒性または弱毒性のウイルスベクターに目的の抗原タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを使用しており, ヒト体内で複製可能なものと不可能なものがある。 アデノウイルスやレトロ/レンチウイルスなどに体の中で増えることができないなどの工夫をして、免疫をつけたい病原体の遺伝子を組み込んだものです。

 ウイルスベクターは, もともと1990年代初頭に欠損遺伝子を導入する遺伝子治療のツールとして開発が始まり, 大きな期待を呼んだ。しかし, 1999年にアデノウイルスベクターを使用した遺伝子導入治療の治験に参加していたオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症罹患男性が, 接種4日後に死亡するという事例や, 2002年にはX連鎖重症複合免疫不全症に対してレトロウイルスベクターによりアデノシンデアミナーゼ遺伝子をex vivo導入した造血幹細胞を移入する治験において, 原疾患は治癒したものの, 遺伝子導入された細胞由来の白血病を発症した事例が報告され, ウイルスベクターで起こる重大な副作用に対する懸念からウイルスベクター療法の実用化は進まなかった。しかし, これらの負の歴史を乗り越えて, 2019年に感染症に対するウイルスベクターワクチンとして初めて, エボラウイルス病に対するrVSV-ZEBOV(VSV: 水疱性口内炎ウイルスをベクターとして使用)が欧米で承認されている。

 ウイルスベクターワクチンの利点としては, 抗原タンパク質発現の安定性, 細胞傷害性T細胞応答誘導, アジュバントが必要ないこと, などが挙げられる。しかし, 使用するウイルスベクターによっては, ヒトゲノムへのウイルスゲノム挿入変異による発がん, ウイルスベクターに対する既存免疫によるvaccine failure, ウイルスベクターそのものによる病原性, 低力価, などのハードルがある。

ヒトに対して病原性のない、または弱毒性のウイルスベクター(運び手)に抗原たんぱく質の遺伝子を組み込んだ、組み換えウイルスを投与するワクチン。ウイルス自体が細胞に侵入し、細胞質で抗原たんぱく質をつくり出すことで、抗体によりウイルスを排除する「液性免疫」と、免疫細胞の1つであるキラーT細胞などにより排除する「細胞性免疫」を引き起こすと考えられている。

 ■ COVID-19に対するウイルスベクターワクチン
 COVID-19に対するウイルスベクターワクチンとしては, Oxford/AstraZenecaがChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)がすでに英国で使用許可を受け, 接種が開始されている(2021年1月現在)。このワクチンで使用されているチンパンジーアデノウイルスベクターは, アデノウイルスベクターで問題となり得る既存免疫がヒトにおいては極めて稀と考えられ, 他の新興再興感染症に対するワクチンとして開発が進められてきた。

最も心配な副反応の血栓症は、血液中の血小板の減少を伴うという特徴をもち、「TTS」とも呼ばれる。うって4日〜4週間後に起きやすいそうです。

英オックスフォード大学と英大手製薬アストラゼネカはチンパンジーアデノウイルスを、カンシノはアデノウイルス(5型)を、J&Jはアデノウイルス(26型)を、アイロムグループ子会社のIDファーマ(東京・千代田)はセンダイウイルスを用いたワクチンを開発中。

 ⇒ ワクチンの種類

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